『紅茶スパイ: 英国人プラントハンター中国をゆく』、著:サラ ローズ/Sarah Rose、 訳:築地誠子、原書房 2011年
ロバート・フォーチュンはバラ愛好家のあいだでは、フォーチュンズ・ダブル・イエロー/Fortune’s Double Yellow(下画像)を中国からヨーロッパへもたらした功績で知られています。
英国はビクトリア王の治世の時代、日が没することがない帝国として繁栄していました。この時代、フォーチュンは中国、インド、日本などを精力的に踏査し英国へ数多い植物を紹介しましたが、とくにそれまで中国の特産品であった“高級茶”をインドで生産するため、中国から茶の苗木と種を盗んだことで知られています。
この著作ではそんなフォーチュンのハラハラし通しの冒険談が詳しく語られています。辮髪までつけて変装し北方民族出身の高官だというふれこみ四川省などの山間地へ入ってゆく様子は手に汗にぎる場面も少なからずあります。
著者サラ・ローズさんのフォーチュンをみつめる視線はヤンチャ坊主を見守る母親のような暖かみのあるものでさわやかな印象をうけます。
プラント・ハンターの冒険談はそれはそれで大変興味深いですし、彼らの活躍により、後の時代で美しい植物を多くの人びとが楽しめるようになったという功績を貶めるつもりは毛頭ないのですが、彼らはそこにある珍しい植物を掘り上げることにためららいはなかったのだろうか、心のすみにひっかかるような思いはなかったのかという疑問がわくことがあります。
その植物はどれほどのの幅かもしれない長久の時間、その地域で生息するために最適な進化をすすめてきた、その地域の天候、土壌、生殖を媒介する昆虫類などとの共生をしてきたわけで、いわば、自然のおりなす生態系の輪のなかにあるわけです。その植物がいちばん似つかわしいのは“そこに生えている”ことであることは自明のことだと思います。ちょっと気取って…
「山路来て何やらゆかしすみれ草」(芭蕉『野ざらし紀行』)
英国、東インド会社は中国へアヘンを輸出し茶を輸入していた利権の拡大をねらって、茶を自国の植民地であるインドでの生産シフトをもくろんだ。
探究心に富み、植物好きで冒険心あるれる青年が、そんな典型的な帝国主義政策の一端をになっていたということが歴史の一ページになってしまいました。著者ローズさんにもそんな“歴史”への反省を込めたコメントがあってもよかったのではないかという感想ももちました。
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