『植物学と植物画』、大場秀章

『植物学と植物画』、著:大場秀章、八坂書房 1996年

植物学と植物画この著作から、ボタニカル・アートとは何か、どんな目的で描かれてきたのか、果たしてきた役割、求められる基本的な要件を知ることができます。
「植物画に求められたものはまず第一に正確な植物の像である…」(同書13ページ)
「ボタニカル・アートとは何だろうか。ひと言で言うとしたら私は花の肖像画と答えたい」(同書14ページ)
大場先生はこのように定義しています。
しかし先生の言に反してしまいますが、正確であるにこしたことはないものの、正確さを犠牲にしても画家が植物にいだいている感情が読み取れるようなもの、解剖学上必ずしも正確ではない、あるいは見えるように描いていない、いかにも野にあるような自然な印象を受ける絵のほうが個人的には好きです。
花の萼や花弁の形状が正確にわかるとたとえば採集した標本の同定に非常に有益であることはたいへんありがたいのですが、画家がその植物をどのように見ていたか、どう感じていたかをうかがい知ることができるほうが自分にとっては興味があるからです。
Basilius_Besler左図は『アイヒシュテット庭園植物誌/Hortus Eystettensis』でtordilion creticus(ポピーの一種)という品種名で記載された図です。16末から17世紀前半にかけて活動したドイツの植物学者、バシリウス・ベスラー/Basilius Besler(1561-1629)によって編集された花図譜です。植物学上での正確さよりも画家がこの花から受けた印象を伝えたいという思いが強く伝わってくると思っています。こんなボタニカル・アートのほうがずっといいと感じます。
こんな思いが進んでしまうと、ボタニカル・アートと植物画との境界が曖昧になってしまいます。まァそれでもいいかなどと安楽に構えています。
Andre_Bauchant_02下は大好きなアンドレ・ボーシャン/Andre Bauchant(1873-1958)の一作品。いつの日かほんものを身近に置けたらなどと見果てぬ夢をみています。

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